作品紹介
「汚いミュージカルをやろう」。そんな構想が膨らんだのは、2015年のこと。古田新太が出演し、福原充則が脚本を手がけた舞台をきっかけに、ミュージカル『衛生』の企画はスタートしました。6年の歳月を経て、7月からTBS赤坂ACTシアターを皮切りに、大阪、福岡を含む3ヶ所での上演が決定いたしました。
2018年に『あたらしいエクスプロージョン』で岸田國士戯曲賞を受賞し、連続ドラマ『あなたの番です』の 全話を執筆した福原充則が書き下ろした新作。福原にとって初となるミュージカル作品の舞台化で、全ナンバーの作詞も手がけます。排泄物を肥料として扱う業者一家の悪行三昧を、ポップかつグロテスクに、それでもどこかあっけらかんと、音楽に乗せて描いていく異色ミュージカルが、今夏、誕生します。
悪者たちの過剰な自己主張、常人の理解を超えた悪行の限りを目撃するうちに、かえってすがすがしい気分となり、やがて客席は逆説的な爽快さに包み込まれることでしょう。
あらすじ
 昭和33年、水洗トイレが普及する前のお話。し尿の汲み取り業者「諸星衛生」は、社長の良夫(古田新太)、息子の大(尾上右近)を中心に、利益を出すためなら殺人も厭わないという経営方針でのし上がってきた。地元の政治家・長沼ハゼ一(六角精児)をバックにつけ、庶民のわずかな資産を吸い尽くすべく、さらなる経営の拡大を画策している。
 一方、諸星衛生のモテない従業員・代田禎吉(石田明)は、恋心を寄せる事務員・花室麻子(咲妃みゆ)を、大に身勝手な理由によって奪われたことでモテない恨みをくすぶらせていた。麻子が、お腹の中に命を宿したまま悲惨な最期を迎えたことで、禎吉のモテない恨みはさらに加速する。
 昭和50年、麻子の残した娘・小子は18歳になっていた。諸星衛生の経営は、良夫から大へと事実上の実権が移り、地元の経済を隅々まで制圧していた。その裏で、かつてのライバル業者だった瀬田好恵(ともさかりえ)が、逆襲の機会を窺って、怪しい組織を率い、その規模を拡大していた。
 そんな中、庶民からの搾取の効率化を進める長沼は、大を起用する一風変わった一計画を進めることになる。計画を聞きつけ、水面下で諸星衛生に復讐を誓う者たちが集い始める。好恵、禎吉、そしてまたひとり――。
コメント
脚本・演出
福原充則
「最近、どうにも悪い大人がカッコ悪い」と思っていまして。子供の頃を振り返ると、敵のボス、大魔王、悪代官、怪人…、みんな、カッコ良かったですよ。"ザ・悪い大人"の政治家もね、庶民を牛耳るだけの人間力があったように思います。大人になってわかったことは、小者に搾取されるとほんとみじめな気分になるということ。悪い人にはどうか輝いていて欲しい。高校野球で、地方予選一回戦で負けた相手が最終的に甲子園で優勝までしてくれたら、少し救われるじゃないですか。相手が強かったんだ。俺が弱かったんじゃないって。少しずれた例えかしら…。
とにかく今回は、こういう人達になら負けてもいいかなっていう、強くて魅力的な悪い奴らを、音楽に乗せて、みなさまの脳天にむかって唐竹割りしながらお届けできたら、と思っています!
音楽
水野良樹
(いきものがかり)
・台本を読み“始めて” 「えらい仕事を引き受けてしまった!」と思いました。
・台本を読み“終えて”「…。すごい仕事を引き受けてしまった…。」と思いました。
この作品を通る前と、通った後とで。心のなかにうごめく感情の密度の違い。台本の文字からさえもモクモクと立ち込める、咳き込むくらい濃い、悪と欲望の煙。それらに飲み込まれて、舞台が終わったあと僕らは何に呆れるでしょうか。
結局、生きることを肯定するためなら、悪も正義も、違いはないんじゃないか。悪も正義も、汚いものも美しいものも、本音も取り繕いも、すべてが混濁して混ざり込んでいるような、まさしく人間らしい主題曲をつくろうと思っています。
音楽
益田トッシュ
すみません、「悪」に実は凄く興味があるんです。ちゃんと安全な所に帰って来られるのに、毎日悪と共に創造活動が出来るなんてとてもワクワクします。今回のストーリー&キャラクターの中に存在する底なしのエネルギー、ほとばしる感情、ダイナミックなカオス感、それらすべてと自分の作るサウンドがひとつになることの喜び!音楽がみなさまの感情の引き金となり、何かを感じて頂ければ嬉しいです。
Rhythm and Vacuumって、これはとんでもないことになりそうですね!
古田新太 人間というか、動物なら必ずしてしまう糞尿。
それをお金儲けにしようとする人々。
それを楽しいミュージカルにできないか。
できるかできないかはこれからだ。
できるかな、できないかな。
精一杯頑張りますよ。
尾上右近 僕は「歌舞伎界のプリンス」とメディアで紹介して頂く機会が多くございます。実際は黒さや品のなさが内在した一人の人間です。
今回のお役を通して自分の中の闇や毒をここぞとばかりに曝け出し、元来の歌舞伎にもある、ダークな内容やタブーにどんどん触れ、観る人の心に突き刺さるよう、本当の歌舞伎役者スピリッツに則ってこのお芝居にチャレンジさせていただきたいと思います!
咲妃みゆ 未開の地に踏み出すような高揚感に包まれています。台本を読ませて頂く中で、個性豊かな登場人物たちの破茶滅茶な思考に私個人としましては共感しづらい瞬間が多々ありましたが、何故か最後には“直向きな人々の勇ましい姿”が印象に残りました。不思議なパワーに満ち溢れた作品だと感じます。
演じさせて頂く2役は私にとって相当な新境地ですが、苦戦することすらも楽しむ覚悟で務めさせて頂きます!どうぞ宜しくお願い致します。
石田 明
(NON STYLE)
『衛生』で代田貞吉役をやらせていただくことになりましたNON STYLE石田です。今回、ミュージカルということで僕は怯えていました。正直、歌が得意でないので心底怯えていたんです。ですが、先日台本が届き、僕の心は軽くなりました。
「思ってたミュージカルと違う!」
正直、1ページ目で笑ってしまいました。ただ笑ってしまうだけでなく、人間の本質の部分がたくさん描かれていて演じるのが楽しみです。
ともさかりえ とんでもない座組みだなと今からドキドキが止まりません。ミュージカルファンの私は、歌ありの芝居には絶対立ち入ってはいけないと心に固く誓っていたのですが…とうとう誓いを破ってしまいました。どうなるのか恐ろしくてたまりませんが、憧れの福原さん、大好きな古田さんをはじめ、すてきな皆様とご一緒できることは素直に楽しみに感じています。
『衛生』の一員になれるよう、精一杯つとめさせていただきます。
六角精児 「悪役」という言葉の響きとその存在が大好きな自分にとって今回、舞台上でなんの気兼ねも無しに思う存分、汚れた悪役を表現出来る機会を与えて頂いたことは喜び以外の何物でもありません。
華と実力を備えた共演者と経験豊富なスタッフが創る、優しさや癒しなぞ何処吹く風の物語は、必ずや観客を魅了し、生きる勇気と明日への清々しい希望を与えてくれる筈です。
「甘口の出し物はちょっとなぁ」と仰る皆様、劇場に御来場あれ。